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助成研究

脳内老廃物の​排出を​最適化:非侵襲的な​感覚刺激に​よる​グリンパティック機能の​向上

脳内老廃物の​排出を​最適化:非侵襲的な​感覚刺激に​よる​グリンパティック機能の​向上

Neuroscience
Glymphatic System
本研究では、​睡眠中に​穏やかな​感覚刺激を​与える​ことで、​脳内の​老廃物を​排出する​機能を​高め、​記憶力や​認知機能の​維持・保護に​つながる​可能性が​あるかを​検証します。
Laura Lewis 博士
Laura Lewis Headshot
マサチューセッツ工科大学​(MIT)​IMES・EECS 准教授
Laura Lewis准教授は、​MITの​IMES​(医療工学・科学研究所)​および​EECS​(電気工学・​コンピュータサイエンス学科)の​Athinoula A. Martinosの​准教授を​務めるとともに、​MGH​(マサチューセッツ総合病院)の​Martinos Center for Biomedical Imagingの​Associate Faculty Memberを​務めています。​

神経科学の​博士号を​取得後、​ハーバード大学の​Society of Fellowsに​おいて、​博士研究員と​して​ニューロイメージング分野の​研究に​従事しました。​

Lewis准教授の​研究では、​ヒトの​脳を​可視化する​ための​マルチモーダルな​イメージング手法の​開発に​取り組み、​それらを​用いて​睡眠を​制御する​神経回路や、​睡眠が​脳機能に​及ぼす影響を​研究しています。​これまでの​研究では、​高速fMRIに​よって​1秒未満の​神経活動の​ダイナミクスを​計測できる​ことを​示した​ほか、​睡眠中の​ヒトの​脳で​生じる​脳脊髄液​(CSF)の​波状の​流れを​発見しました。​

こうした​研究成果は​高く​評価され、​Peter and Patricia Gruber International Research Award、​Sloan Fellowship、​McKnight Scholar Award、​Pew Scholar Awardなど、​数々の​賞を​受賞しています。
要旨
脳の健康は、「グリンパティックシステム」と呼ばれる精巧な老廃物排出システムによって支えられています。このシステムは、脳脊髄液(CSF)を利用して、アミロイドβやタウタンパク質などの代謝によって生じる老廃物を「洗い流す」役割を担っています。この脳内の浄化プロセスは深い睡眠中に最も活発になりますが、加齢や睡眠不足によってその機能は大きく低下します。

MITのLaura Lewis准教授が率いる本プロジェクトでは、感覚刺激を適切なタイミングで与えることで、この脳内の浄化サイクルを促進する新たな非侵襲的アプローチの開発・検証に取り組んでいます。このアプローチは、脳のレジリエンス(健全性・回復力)を高め、アルツハイマー病などの神経変性疾患のリスク低減につながる新たな可能性として期待されています。
背景
加齢に伴い、脳内には老廃物が蓄積しやすくなります。その要因の一つとして、睡眠中に生じるCSFの流れが低下することが考えられており、これによって認知機能の低下に関連する有害なタンパク質が蓄積する可能性があります。

現在、このCSFの流れを維持・促進するための技術は実用化されていません。また、従来のCSF動態の測定手法は、測定に時間がかかる、あるいは侵襲性を伴うといった課題があり、臨床や一般消費者向けに広く利用することが困難でした。こうした背景から、脳内環境をモニタリングし、その健全性を維持するための手段は、いまだ十分に確立されていません。
プロジェクトの​目標
CSFの流れの解明: 年齢や睡眠ステージによって、CSFの流れがどのように変化するかを明らかにします。

概念実証(Proof of Concept): 非侵襲的な感覚刺激が、ヒトの脳内におけるCSFの流れを増加させることを実証します。

将来の実用化に向けた基盤構築: 生涯にわたって脳の健康を維持し認知機能を最適な状態に保つための、非侵襲的な技術開発に向けた基盤を構築します。
アプローチ
本研究では、高速イメージングと個人に合わせた感覚刺激を組み合わせたクローズドループ型のアプローチを活用します。

クローズドループ感覚刺激: 個人の睡眠中の徐波に同期させて感覚刺激を与えることで、CSFの律動的な流れを誘発します。

EEG-fMRI同時計測: 睡眠中の神経活動とCSFの流れを同時にモニタリングすることで、感覚刺激が脳内のCSF動態を直接変化させるかを検証します。

予測アルゴリズム: CSFの流れに対する感覚刺激の効果を最適化するためのアルゴリズムを開発します。
研究方​法
睡眠中のクローズドループ感覚刺激

Lewis研究室のこれまでの研究から、覚醒中のヒトに強い視覚刺激を与えることで、脳内のCSFの流れを誘発できることが示されています。しかし、この刺激によって誘発されたCSFの流れの大きさは、睡眠中に自然に生じるものには及びませんでした。本プロジェクトではこの知見を踏まえ、もともとCSFの流れが増加する睡眠中に感覚刺激を与えることでその効果を検証します。

本研究では、クローズドループEEG-fMRIプラットフォームを用いて睡眠中に感覚刺激を与え、そのCSFの流れへの影響を直接測定します。この手法では、EEGによって徐波をリアルタイムで検出すると同時に、高速fMRIを用いて脳内のCSFの流れを測定します。これにより、睡眠中の徐波の特定の位相に合わせて感覚刺激を与え、その刺激によってCSFの流れが増加するかを評価します。

加齢に伴う変化を考慮した感覚刺激の最適化

徐波活動は加齢に伴って変化するため、若年者を対象に開発された感覚刺激プロトコルが、高齢者でも同様に有効であるとは限りません。そこで本プロジェクトでは、まず高齢者のパイロットグループを対象に、刺激のタイミング、強度、モダリティなどの条件を調整・最適化します。

その後、最適化したプロトコルを若年者と高齢者の双方で検証します。試験では、同一の被験者に対して実刺激と偽刺激(sham)を比較するデザインを用います。これにより、適切なタイミングで感覚刺激を与えることで徐波活動を高め、CSFの流れを増加させられるかを検証します。さらに個別化されたアルゴリズムによって、高齢者における感覚刺激の効果をさらに高められるかについても評価します。
今後の​展開
今後は、最適化した感覚刺激プロトコルを用いて、クローズドループ感覚刺激が若年者と高齢者の双方で徐波活動を高め、CSFの流れを促進させられるかを検証します。また、個別化されたアルゴリズムを用いることで、高齢者における感覚刺激の効果をさらに高められるかについても評価します。

画像: Laura Lewis准教授によるMRI動画の一部。深い睡眠中に、血液の酸素化の変動(赤)に続いて、脳脊髄液(青)が脈動する様子を示しています。