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助成研究

Project EDITOME:生成AIに​よる​精密マイクロバイオーム・エンジニアリング

Project EDITOME:生成AIに​よる​精密マイクロバイオーム・エンジニアリング

Editome Image
地球上の​あらゆる​場所で、​微生物を​その場で​直接リプログラムできる​未来を​想像してみてください。​EDITOMEが​目指すのは、​腸内や​皮膚、​土壌など、​微生物が​本来生息する​環境の​中で、​その​遺伝子を​直接編集する​ことです。​これに​より、​微生物を​環境から​分離し、​培養した後、​再び元の​環境に​戻すと​いう、​時間が​かかり、​エラーも​生じやすい​従来の​プロセスを​省く​ことが​可能に​なります。
著者に​ついて​
Brady Cress 博士
Brady Cress
カリフォルニア大学バークレー校 イノベーティブ・ゲノミクス研究所
マイクロバイオーム編集技術 主任研究員
Brady Cress氏は、​カリフォルニア大学バークレー校の​Innovative Genomics Institute​(IGI)に​おいて、​精密な​マイクロバイオーム編集技術の​開発に​取り組む研究プログラムを​率いています。​Cress研究室では、​微生物学分野に​おける​大きな​課題の​一つである、​多様な​非モデル微生物に​対し、​それらが​本来生息する​微生物群集内で​効率的に​DNAを​導入・編集する​ことの​難しさに​取り​組んでいます。​

同研究グループは、​水平遺​伝子伝播を​制御する​メカニズムを​研究するとともに、​そこで​得られた​知見を​活用し、​プラスミド、​ファージ、​その​他の​可動遺伝因子を、​プログラム可能な​DNA送達・ゲノム編集システムと​して​利用する​ための​技術開発を​進めています。​

Cress氏は、​Jennifer Doudna教授のもとで​NIH Kirschstein-NRSA​(F32)​Postdoctoral Fellowship に​採択され、​マイクロバイオーム編集に​用いる​CRISPR関連トランスポザーゼを​共同開発しました。​現在、​Cress研究室では​Bridge Recombinaseを​用いた​マイクロバイオーム編集技術の​開発を​進めており、​細菌ゲノム内の​大規模な​DNA領域を​プログラム可能な形で​置換する​「search-and-replace型」の​ゲノム編集技術の​開拓にも​取り​組んでいます。​

これらの​研究を​通じて、​Cress研究室は、​これまで​遺伝子操作が​特に​困難だった​微生物も​遺伝子工学的に​扱えるように​する​ことを​目指しており、​ヒトの​健康、​気候、​農業など​幅​広い​分野への​応用が​期待されています。
Ben Rubin 博士
Ben Rubin
カリフォルニア大学バークレー校 イノベーティブ・ゲノミクス研究所
マイクロバイオーム編集応用 主任研究員
Ben Rubin氏は​Rubin研究室を​率い、​微生物が​本来生息する​微生物群集内で​その​ゲノムを​編集する​ための、​汎用性の​高い​ツールの​開発に​取り​組んでいます。​同研究室では、​メタゲノミクスと​AIを​活用した​配列設計、​CRISPR-Casツールを​組み合わせる​ことで、​マイクロバイオームの​機能を​解析・改変する​技術の​開発を​進めています。​また、​共同研究者と​連携し、​ヒトの​腸内、​ウシの​ルーメン​(第一胃)、​植物の​根圏など、​多様な​環境に​おける​微生物群集の​編集に​これらの​技術を​応用しています。​

Rubin氏は​非営利団体Science Corpsの​共同創設者でもあります。​研究室を​離れている​ときには、​できる​限り​多くの​時間を​太平洋で​過ごしています。
Jamie Irvine
Jamie Irvine
Researcher, Innovative Genomics Institute at the University of California, Berkeley
Jamie studied mathematics at UCLA before completing a master's in computer science at Stanford, focusing on machine learning. He brings over a decade of industry experience, including several years at Google, where he worked on advancing ML research and engineering. In the Rubin Lab, Jamie develops AI systems for microbial engineering, with an emphasis on DNA language modeling. Outside the lab, he enjoys Pilates, gaming, and serving as a jungle gym for his three tireless toddlers.
要旨
Project EDITOME(Engineering from Data-driven Insights for Targeted Optimization of Microbiome Editing)は、複雑な自然環境に存在する微生物の遺伝子を、その場で直接編集するという革新的な遺伝子工学アプローチの確立を目指すプロジェクトです。

従来のマイクロバイオームへの介入では、抗生物質やプロバイオティクスのように、微生物群集に広く作用する手法が中心でした。一方EDITOMEでは、遺伝子レベルで精密に作用することで、これまで実現できなかった高い精度と制御性を目指します。

本プロジェクトでは、独自の大規模言語モデル(LLM)を活用してDNAエレメントを設計し、微生物の挙動を迅速かつ予測可能な形で変化させることで、従来は遺伝子操作が困難、あるいは不可能だった微生物種を含め、その増殖や機能をこれまでにない高い精度で制御できる可能性があります。この技術が取り組むのは、マイクロバイオーム工学における中心的なボトルネックです。すなわち、多種多様な微生物が密集する生態系の中で、特定の標的微生物に遺伝子編集ツールを正確に届け、さらにそのツールを確実に機能させることです。

最終的には、マイクロバイオーム研究を単なる「相関」の解明から真の「因果関係」の解明へと発展させ、ヒトの健康、農業、産業の持続可能性など幅広い分野において、スケーラブルかつプログラム可能な介入の実現につながると期待されます。
背景
微生物群集を改変する従来の手法には、根本的な課題があります。微生物が単独で分離された状態では、本来の微生物群集内に存在するときとは異なる挙動を示す場合が多いことです。

多くの従来手法では、個々の菌株を分離して研究室で培養し、遺伝子編集を行った後、元の生態系へ戻すというプロセスが必要です。しかし、この一連のプロセスには時間がかかり、エラーも生じやすいうえ、遺伝子編集した微生物を元の環境に戻しても、生存できなかったり、期待どおりに機能しなかったりすることも少なくありません。また、抗生物質やプロバイオティクスをはじめとする医療・農業分野の多くの介入は、特定の微生物を精密に改変するのではなく、微生物群集全体に広く作用します。

現在の合成生物学における根本的なボトルネックは、複雑かつ高密度な生体システムの中で、標的とする微生物に遺伝子編集ツールを正確に届け、それを確実に機能させることが難しい点にあります。
アプローチ
EDITOMEでは、AIを活用した「Design-Build-Test-Learn(設計・構築・検証・学習)」サイクルを導入します。このサイクルでは、計算モデルによって遺伝子編集ツールを設計し、実験室でその性能を検証し、得られた結果を次の設計にフィードバックすることで、継続的に性能を向上させます。

プラスミド設計のための生成LLM:
手作業による試行錯誤に代わり、あらゆる標的生物に合わせてカスタマイズされた完全なプラスミド編集システムを生成することを最終目標として、LLMの開発を進めています。現在はその基盤となるステップとして、特定の細菌内でプラスミドを維持し機能させるために不可欠な遺伝要素である「適合性のあるレプリコン」のDNA配列設計に重点を置いています。

ET-Seq、DART、Bridge Recombinase技術:
IGIが開発してきた基盤技術を活用します。Environmental Transformation Sequencing(ET-Seq)は、複雑な微生物群集の中から遺伝子操作が可能な微生物を特定する技術です。さらに、DNA-editing All-in-one RNA-guided CRISPR-Cas Transposase(DART)に加え、近年では標的部位へのDNA挿入を可能にするBridge Recombinaseなどの技術も活用しています。これらの技術を組み合わせることで、個々の微生物種を分離することなく、複雑な微生物群集内で直接遺伝子編集を行い、その改変を検証することができます。

反復学習:
実験室で得られた結果をAIモデルにフィードバックすることで、モデルが継続的に改善される仕組みを構築します。これにより、これまで遺伝子操作が困難だった細菌に対する編集成功率を高めていくことができます。
研究方​法
EDITOMEでは、生成AIと高度なCRISPRベースの微生物群集編集技術を統合した、ハイスループットな「Design-Build-Test-Learn (設計・構築・検証・学習)」サイクルを採用しています。この手法では、従来の試行錯誤に頼るアプローチから脱却し、特定の微生物内で編集ツールを機能させるために必要な遺伝要素を予測します。
AIに​よる​ツール設計
本プロジェクトの基盤となるのは、PLSDBやIMG/PRなどの大規模なゲノム・プラスミドデータベースを用いて学習させた生成型大規模言語モデル(LLM)です。

現在の焦点:
最終的なビジョンは、プラスミドをエンド・ツー・エンドで生成することですが、現時点では、標的とする細菌内でDNAプラスミドを維持し、機能させるための「適合性のあるレプリコン」の設計に重点を置いています。レプリコンには、複製起点やRepタンパク質に関わる要素など、プラスミドが細菌内で維持・機能するために重要な遺伝要素が含まれます。

精密エンジニアリング:
汎用的なツールを用いるのではなく、既存の手法では遺伝子操作が難しい非モデル微生物について、それぞれの細胞内の仕組みに合わせて最適化されたカスタムDNA配列をAIによって設計します。
応用分野
短期的には、技術的リスクが最も低い産業用微生物システムに重点を置いています。この段階では、発酵、酵素生産、バイオベース化学品などの製造プロセスで、すでに利用されている微生物株の最適化を目指します。こうした既存の産業用菌株の収率、安定性、効率をピンポイントで改善することで、大規模かつコストのかかる菌株の再開発を行うことなく、制御されたin vitroおよびex vivoシステムを用いて、12~18カ月以内に実用的な価値を生み出せる可能性があります。

中期的には、より広範な生態学的課題への応用を目指し、農業や気候変動に関わる環境の持続可能性の領域へとプラットフォームを展開することを想定しています。この段階では、in situ(微生物が存在する環境内)での編集を用いて、土壌や植物に関連するマイクロバイオームを直接改変し、作物の収量、栄養利用効率、環境ストレスへの耐性を向上させることを目指します。同様のアプローチは、メタン排出量の削減を目的とした家畜のマイクロバイオームや、バイオ燃料生産に関わる微生物群集にも応用できる可能性があります。これらの応用検証には18~24カ月程度を想定しており、外部の医薬品開発業務受託機関(CRO)の支援を受けながら、動物、圃場、土壌を対象とする試験を実施します。

ヒトの健康と局所治療は、EDITOMEが特に大きなインパクトをもたらし得る応用分野の一つです。この分野では、すでに実験モデルを用いた研究が進められています。 EDITOMEを活用することで、炎症性腸疾患(IBD)や喘息など、これまでヒトの健康や疾患との「相関」しか示されていなかった微生物遺伝子について、その因果的な役割を検証することができます。これらの遺伝子を直接編集し、その影響を観察することで、マイクロバイオーム研究を単なる「関連性」の発見から、その背景にある「メカニズム」の解明へと発展させるとともに、制御された実験モデルにおける治療候補の初期実証にもつなげることができます。

本格的な臨床応用はより長期的な目標となります。初期段階では、比較的アクセスしやすく、編集ツールを届けやすい皮膚や口腔などへの応用から検討を進め、その後、より長期的なタイムラインで生体内における広範な検証を行うことが想定されています。